【クロアチアワイン】主要な土着ブドウ品種:赤白トップ 3

 
2500 年以上ワイン造りが続くクロアチア。
土着品種が非常に多く、クロアチアでもごく一部の地域にしか存在しないレア品種も盛りだくさん。
地方ごとに特徴的なスタイルや品種のワインを楽しむことができるのがクロアチアワインの魅力の一つです。

クロアチアのワイン作り:ざっくりまとめ

クロアチアは、古代ギリシャ時代から現在まで、なんと 2500 年以上に渡ってワイン生産が続けられている歴史あるワイン生産地。
ヨーロッパの他の歴史あるワイン産地の多くと同様、土着のブドウ品種の数、そして家族経営の個性的な生産者が非常に多いのも特徴の一つです。

伝統的なワイン作りの土台だけでも十分楽しめるワインリージョンなのに、ここ 30 年ほどの間に現代の先端技術や知識を取り入れる若手ワインメーカーが急増!
これにより、製法やスタイルの幅も広がり、これからもどんどん国内外の評価が高まっていくことが予想されています。

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クロアチアの主要ブドウ:白ワイン品種

グラシェヴィナ(Graševina)

グラシェヴィナは、クロアチアで生産されるワイン全体の 4 分の 1 近くを占める、圧倒的人気第 1 位のブドウ。
クロアチアではスラヴォニア平原で多く栽培されています。

 
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この品種はオーストリア、ハンガリー、スロヴェニア、クロアチアを中心とする地域で広く栽培されていて、日本ではオーストラリア名の『ウェルシュリースリング(Welschriesling)』として知られる品種と同一種です。

ウェルシュリースリングは数百年に及んで栽培されてきた記録のある古い品種ですが、その起源は明確には判明していません。
また、名前に『リースリング』とついていますが、リースリングとの間に遺伝的近縁関係はなく、別種です。

名前から起源を探ると、vlašský、Welsch、Laški などワラキア(おおむね現在のルーマニアにあたる地域)を指す言葉、または Olasz、Talianska、Italicoなどイタリアを指す言葉が名前に入っているケースが多く見られますが、次の点からいずれも根拠に乏しいと考えられます。

  • ルーマニアではこの品種が『イタリアのリースリング』と呼ばれている
  • 『Riesling Italico』= 『イタリアのリースリング』という名前の起源となった北イタリアにこの品種が導入されたのは 19 世紀に入ってから(※他の地域ではより古くから栽培が続いている)

また、現在この品種が広く栽培されているオーストリアやドイツの『ウェルシュリースリング』という名前も『外国のリースリング』という意味 = この地域が原産とも考えづらく、その栽培規模の広汎さや栽培の歴史のふるさから、これはクロアチア、あるいはその付近のドナウ川沿岸の平原を原産とする可能性が高いと考えられます。

参照:Jancis Robinson, Julia Harding, José Vouillamoz『Wine Grapes: A complete guide to 1,368 vine varieties, including their origins and flavours…この記事全般で参照しています。

グラシェヴィナを使ったワインはキリッとドライで爽やかな辛口のものが多いですが、スパークリングワインや極甘口ワインも存在します。
クロアチアでは圧倒的に最初の「キリッとドライで爽やかな辛口」の生産量が多く、いつでもどこでも手に入る、万人受けする、お財布に優しいのにハズレは少ない、合わせる食べ物の幅も広い、とにかく頼れるグラシェヴィナが主流。

 
日本に輸入されているグラシェヴィナもほとんどがこのタイプ。

 

多分一番まとまった量が入っているのではないかと思われる(そしてAmazon で購入できる)フェラヴィノ(Feravino)のグラシェヴィナや、イロチュキ・ポドゥルミ(Iločki Podrumi)のグラシェヴィナもこのタイプで、どちらもクロアチアの定番(の中のちょっといい方)。
肩肘はらず、でも「今日はちょっといつもよりいいワイン飲もうかな」という時の間違いないグラシェヴィナです!

 

マルヴァジヤ・イスタルスカ(Marvazija Istarska)

マルヴァジヤ・イスタルスカはクロアチア国内の人気二番手のブドウ品種。
イストラ半島原産の土着種で、イストラのブドウ生産量のなんと 6 割近くをこれが占めるという、まさに圧倒的な人気を誇ります。

過去にはギリシャ原産のブドウと関連があると考えられていましたが、遺伝子的に見ると、現存するギリシャの品種でマルヴァジヤ・イスタルスカと近縁関係にあるものは見つかっていません。
クロアチア国外では、スロヴェニアの海岸沿いとイタリアのフリウリで、一定量、この品種の栽培が行われています。

参照:Edi Maletic, Jasminka Karoglan Kontic, Ivan Pejic, Darko Preiner「Zelena knjiga: Hrvatske izvorne sorte vinove loze…この記事全般で参照しています。

 
マルヴァジヤ・イスタルスカも数百年栽培が続いている古い品種ですが、第二次世界大戦前まではこの地域は赤ワインを好む人が多く、白ワイン用ブドウの栽培量は全体の 10% にとどまっていたそうです。

しかし近年になってからこのブドウで作られたイストラのワインが国内外で高い評価を得始め、この 50 年で一気に広まりました。

マルヴァジヤ・イスタルスカは汎用性が高く、様々なスタイルのワイン作りが可能な底力のあるブドウです。
若いフレッシュな状態を楽しむもよし、寝かせて熟成したまろやかさを楽しむもよし、オークの香りをまとわせてもよし、オレンジワインにしてもよし、とまさに万能選手。

 
日本に入ってきているのはファキン・ワインのものと、ピクェントゥムのものロジャニッチのものくらいはないかと。

ファキンのマルヴァジヤ・イスタルスカは、創業者のマルコ・ファキンさんが独立してたった 3 年でデキャンタ・ワールド・ワインーアワードで金賞を受賞 → その後も連続して金賞を受賞し続け、デキャンタからプラチナアワードも贈られたという知る人ぞ知る逸品。

ピクェントゥムとロジャニッチは両方オレンジワインで、典型的なマルヴァジヤ・イスタルスカのスタイルではないものの、どちらもこの品種のもつポテンシャルがよく分かる、素晴らしい出来です。

ポシップ(Pošip)

ポシップはダルマチア地方のコルチュラ島原産の品種です。
もともとはコルチュラ島にしか生えておらず、50 年ほど前までは島外ではさほど多く流通していませんでした。

ワイン用のブドウには珍しく、そのまま食べても香りがよく美味しいブドウなので、一部はフルーツとしてそのまま食用になっています。
花とトロピカルフルーツが融合したような華やかで繊細な香りは、実だけでなく枝や葉からもほのかに感じられるそうで、コルチュラではポシップの枝を爪楊枝にすることもあるようです。

非常に魅力的な香りや味を持つことに加え、ポシップは実の付きもよく、早熟で、様々な土地に適応することができることができ、しかもその土地ごとに独特の味わいが出る、ワインメーカーにとっては本当にありがたい品種。
その評価が島外に届き高まるにつれ、栽培の範囲も一気に広がり、今ではコルチュラ島だけでなく、他の島々や本土側の畑でも栽培さている、ダルマチアを代表するプレミアム品種になりました。

 
ポシップは日本にも数種類輸入されていますが、コルチュラ島から来ているものはおそらくブラック・アイランド・ワイナリー(Black Island Winery)のもののみですね。

 

ブラック・アイランド・ワイナリーの Merga Victa Pošip というのが、ポシップの生まれ故郷で今でも傑出した産地とされるスモクヴィツァ(Smokvica)産で、これは典型的なコルチュラのポシップの特徴がよくわかる、非常によくできたワインです。

これを味の軸として、日本で売られている他の産地(ブラチュ島やコマルナ)のポシップと飲み比べると面白いですよ! 

 

クロアチアの主要ブドウ:赤ワイン品種

プラヴァッツ・マリ(Plavac Mali)

クロアチア語で「小さな青」という意味の名を持つこの品種は、その名前の通り、とても色が濃く、紫を通り越して青みがかって見える果皮の、小粒で大きさの不揃いな実が特徴です。
ダルマチアの痩せた石灰岩質の岩場でもよく育ち、菌類による病気にも比較的強く、毎年平均的によい実りが期待できる上、糖度が高くアルコール度数の高いワインができるので非常に人気が高いです。

プラヴァッツ・マリは、クロアチアで生まれて、後にイタリアやアメリカに渡って定着し『プリミティーヴォ(Primitivo ※イタリア名)』または『ジンファンデル(Zinfandel ※アメリカ)』と呼ばれるようになったダルマチアの土着種、『ツルリェナク・カシュテランスキ(Crljenak Kaštelanski)』の子どもにあたるブドウです。
残るもう片方の親は『ドブリチッチ(Dobričić)』という、これもダルマチアの土着種。

プラヴァッツ・マリは、その多くがパワフルなダークフルーツの香りを持つ力強いワインになりますが、その力を芯に残しながらまろやかに、繊細に仕上げることもできる面白いブドウです。
また、ダルマチア伝統のワインに、『オポロ』と呼ばれるロゼや、アパッシメント製法で作られる極甘の『プロシェック』がありますが、プラヴァッツ・マリはどちらの原料としてもよく使われ、まったく別の個性を見せてくれます。

 
プラヴァッツ・マリのワインはアルコール度数が 14 〜 15% のパワフルなワインが多いです。

 

『3 つの太陽』と言われる、ダルマチアの強烈な太陽、海からの照り返し、畑の白い石灰岩からの照り返しを存分に受けられる畑がプラヴァッツ・マリのポテンシャルを最大限引き出す畑だと言われています。
その条件を完璧に満たすペリェシャツ半島の山の斜面、フヴァル島の南側の斜面などが昔からよく知られる名産地です。

 
 
プラヴァッツ・マリは作り手や畑によって、引き出される味に非常に大きな差が出るブドウ。
美味しいものは非常に美味しいけれど、わりと「う〜ん、やりすぎちゃったねー」と思わざるを得ない、大味でただただ強いものもあったりします。

 

自宅でお酒を作るのが合法のクロアチアでは、「自分の家のワインは自家製」という農家もけっこういるのですが、そういうプラヴァッツ・マリの中には、ワインというより頭痛を引き起こすために生まれた液体に生まれ変わっている事もあります。
逆に、「ここの家のワインは近所でも評判なんだ!」というお家で昔から大事に寝かされてきたとても良くできたワインなどは、「これを自分で作るなんてありえるの?神なの?」と思うくらい美味しかったりします。

ものすごく面白い品種です!

 

ツルリェナク・カシュテランスキ(Crljenak Kaštelanski)

ツルリェナク・カシュテランスキは、上述の通り、現在のダルマチア代表種、プラヴァッツ・マリの親にあたるブドウで、クロアチアからイタリアとアメリカに渡り、それぞれ『プリミティーヴォ』『ジンファンデル』という名前で人気のブドウとなりました。

しかし本家のクロアチアの方では、フィロキセラ禍により一度絶滅寸前まで減少した後、作付面積があまり回復せず、今でも絶滅の危険のある品種と見なされています。
回復が進まなかった理由は、フィロキセラ禍の後、再度ブドウの植え付けが行われた時に、子にあたるブドウのプラヴァッツ・マリとの置き換えが進んでしまったからだそうです。

※フィロキセラ(ブドウネアブラムシ)とは、19 世紀から 20 世紀にかけてヨーロッパで大流行し、ワイン用のブドウ、ヴィティス・ヴィニフェラ種を壊滅寸前まで追い込んだ寄生虫です。

ただ、近年はアメリカのジンファンデル人気を受け、クロアチアでもツルリェナク・カシュテランスキの作付面積は徐々に増加中。
クロアチアのワインメーカーでも、あえて『ジンファンデル』と冠してこれを作るところもぼちぼち現れてきています。

 
ツルリェナク・カシュテランスキは古いブドウ品種なので、地方ごとに違う名前がつけられていることが多いです。

トリビドラグ(Tribidrag)、プリビドラグ(Pribidrag)、クラトシヤ(Kratošija)などは全てこれ。
 
ツルリェナク・カシュテランスキは、他のダルマチアの品種、バビッチ(Babić)、バビツァ(Babica)、プラヴィナ(Plavina)、ツルリェナク・ヴィシュキ(Crljenak Viški)、ヴラナッツ(Vranac)、そして白のグルク(Grk)などと親子関係にあることがわかっています。

昔から人気のあった品種をこれだけ生み出してきたブドウというのは、それはそれでとても価値がある存在何じゃないかと思います!!
もっと飲もう!
 
 

テラン(Teran)

テランは 14 世紀から書物上の記録が残る非常に歴史のある品種で、より広く栽培されているイタリアのフリウリ=ヴェネツィア・ジューリアやエミリア=ロマーニャでは『テラノ(Terrano)』や『テラノ・ディストリア(Terrano d’Istria)』、スロヴェニアでは『レフォシュク(Refošk)』という名前で知られています。

原産地は明確にはなっていないものの、文献および栽培面積・量などから、おそらくイタリアとスロヴェニアの国境に広がるカルスト台地と推測されています。

上のツルリェナク・カシュテランスキの項目でも出てきたフィロキセラ禍以前はイストラで最も多く栽培されていた品種ですが、マルヴァジヤ・イスタルスカの人気に押され、現在ではその順位は逆転しています。
しかしそれでもイストラで最も重要な赤ワイン品種であることに変わりはありません。

イストラのテランは芯のあるタンニンとフレッシュなベリーの香り、心地よい酸味で知られ、若い内に飲んでも、樽熟成させても違う個性でどちらも楽しめる品種として知られています。

 
テランはレフォスキ(Refoschi)と呼ばれるグループの中の 1 種なのですが、このグループは、歴史的に名前の混同が激しい!
どれとどれが同じもので、どれが違うのか…という詳細な分類が確立されてきたのは DNA プロファイリング技術が向上した現代、しかもつい数年前になってからの話なのです。

面白いことに、イタリアとクロアチアではこの品種、『テラン』『テラノ』『テラノ・ディストリア』など、ほぼ同じと言っていい名前で呼ばれてきたのに対し、間に挟まっているスロヴェニアでは『レフォシュク』という名前で呼ばれています。
 
 
この名前の混乱により、イタリア、スロヴェニア、クロアチア各国がそれぞれ微妙に異なる認識で法律を作ってしまいました。

そして 2006 年、スロヴェニアが『テラン』を EU の原産地名称保護を受けるワインとして申請、受理されてしまうのですが、これがなんとイタリアとクロアチアでは『レフォスコ/レフォシュコ』と呼ばれる品種で作られたワイン。
この原産地名称保護により、イタリアとクロアチアのワインメーカーは『テラノ/テラン』という品種で作ったワインに品種名を記載することができなくなってしまったのです。

それはどうか、ということでその後数年に渡る裁判沙汰となり、結局イタリアは『テラノ』、クロアチアは『クロアチア、イストラのテラン(Hrvatska Istra – Teran)』とラベルに記載されることが公式に認められることになりました。
参照:Edi Maletić, Jasminka Karoglan Kontić, Darko Preiner, Silvio Šimon, Mario Staver, Ivan Pejić『Ampelographic and genetic studies into ‘Teran’/’Refošk’ grapes in Istria (Croatia) – one or two varieties?

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